ここは、深セン市羅湖区深南東路5018号で、とある大劇場に入っているカフェだ。
「こんにちは。ホットラテを一つ」。午後4時、1人の中年男性が店内に入ってきた。背中を向けていたバリスタは全く気付いた様子に見えなかったので、客の男性はさきほどよりやや大きな声を出した。ちょうどその時振り返ったバリスタは、男性客に少し申し訳なさそうに、カウンター近くのボードを指さした。
ボードには、「私は、『優邦聴覚障害者の社会融和を支える計画』を支持するバリスタです。声を出すことはできませんが、お客様のために心を込めてコーヒーを淹れています。お客様の言葉が私には聞こえませんので、ボードで筆談をしていただけますか。どうぞよろしくお願いします」と書かれていた。
普通のバリスタと違うのは、阿迪さんが聴覚障害者であるという点だ。
同店のマスター・鄭輝さんと出会うまで、阿迪さんは定期市場の屋台で手工芸品を売っていた。毎月の収入はあまり安定しておらず、なんとか生計を維持しているような状態だった。阿迪さんの周囲にいる聴覚に障害を持つ友人たちの多くは、健常者とのコミュニケーションがスムーズにできないため、工場のライン作業や肉体労働である運搬業に携わっている。
阿迪さんは聴覚に障害があるからといって、人生のあらゆる可能性を放棄したくはないと考え、「聴覚障害者は、聴こえないだけで、その他の事は何だってできる」としている。そして阿迪さんとマスターの鄭輝さんは、努力と自分のスキルを高めることで、聴覚障害者もさまざまな職業に就くことができると考えている。
見習いとして雑用をこなすことからバリスタになる訓練まで、阿迪さんにとっては決して容易なことではなかった。健常者のバリスタなら、ミルクを泡立てる時、ミルクと蒸気がぶつかる音を頼りにミルクの質感と厚みを判断することができる。カッピングの際には、コーヒーをすすることで、コーヒーの香りや口当たりをより繊細に分析することができるが、すするという動作もまた、音からの判断によるところが大きい。
阿迪さんはこうした練習を休憩時間も惜しんで何度も繰り返した。一つ一つのプロセスから一つ一つの動作まですべてに細心の注意を払い、試飲を繰り返すことで味を定めようとした。数杯の試飲から始まった練習はついには十数杯にまでなってしまい、夜になっても眼が冴えてなかなか眠つけなかったこともしばしばだったという。
中国の口コミサイト「大衆点評」には、数多くのネットユーザーから、このカフェに心温まるメッセージが寄せられている。
“无声有爱的咖啡,支持残障人士真正地融入社会,上帝关上一扇门的时候为他们打开了另一扇窗,无比专注做出来的咖啡喝到了真正纯粹的口感。”
「声は無くても愛のあるコーヒー、障害を持つ人が本当に社会に溶け込めるよう支援したい。神様は、1枚のドアを閉めた時は、必ず彼らのために別の窓を開けてくれるから。極限まで集中した状態で淹れたコーヒーを一口飲むと、正真正銘ピュアな味わいが口の中に広がる。」
「このイケメンにコーヒーを1杯飲みたいと話しかけたのに、ずっと無視されたままで、私はムッとしていた。その後ようやく、彼は聞こえなかったのだと知り、本当に自分が恥ずかしかった」。
「このカフェに初めて来たとき、とても静かなので試験勉強をするのにピッタリだと思った。その後、何度か来てみて、ここで心の静けさを得ることができて、退屈な毎日の中で自ら行動するエネルギーを与えてくれる場所だと分かった」。
統計データによると、中国には2千万人以上の聴覚障害者がおり、その多くは無職または失業状態にある。彼らは、健常者と交流する術がなく、健常者と同じような生活を送ることもできない。より多くの障害者が、尊厳ある生活を送り、自ら起業や平等な就職を実現できるよう、社会は彼らにより多くの関心を注がなければならない。】
转载自人民网日文版